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何をする仕事? 英治出版が考える「出版とは何か」5つのポイント

英治出版で一緒に仕事をする仲間を募集するにあたって、この仕事がいったい何をする仕事なのか、英治出版では「出版」をどのように考えているのかについて、お話ししてみたいと思います。出版とは何をする仕事なのか。

本を作る仕事だろう、と思われるかもしれませんが、ちょっと違います。たしかに本を作ってはいますが、それが本質ではないというか、ちょっと違ったとらえ方を私たちは意識しています。5つのポイントにまとめてお話ししてみます。(文:高野達成)


1.パブリックにする仕事

最初にクイズです。これは何でしょうか。

Frontispiece, Diamond Sutra from Cave 17, Dunhuang, ink on paper. / public domain

ウィキペディアで知ったのですが、これは『金剛般若経』という仏教の経典の一つで、中国の敦煌で発見されたものだそうです。868年に作られた、世界最古の印刷された出版物です。出版の歴史の大元にあるものと言えるのかなと思います。当然、今の印刷とは異なり、木の板を彫って刷る「木版印刷」による印刷物です。版画みたいなものでしょうね。

何が言いたいかというと、「出版」は「版」の字が示すように、印刷と不可分なんですね。著書を出すことを「上梓」と言いますが、この「梓」は版木に使われた木を意味するそうで。言葉の由来が木版印刷にあるわけです。とにかく、版を作って、刷って、出すことが「出版」ということになります。

ですが、「出版」の英語訳である「Publishing」は、パブリック(公)にする、ということから来た言葉のようです。これもウィキペディアからの知識ですが、ラテン語のpopulusという言葉が、ポピュラー、ピープル、パブリック、などに派生したそうで、その先にパブリッシングがある。

版で刷る、という「出版」と、パブリックにする、という「パブリッシング」では、意味合いがだいぶ異なります。そして英治出版では、どちらかというと後者の意味合いでこの仕事をとらえたいなと考えています。

出版は「パブリックにする仕事」。もちろん、私たちも印刷物を作っているわけですが、仕事の本質はそこではなく、パブリックにすることにあるのだ、と。これが最初のポイントです。

パブリックにする仕事、として捉えると、本をつくる上で意識することも、ちょっと違ってくる気がします。これはパブリック(公)にする意味や必要性があるのかな、と考えるということです。

たとえば、一時期よく売れてコーナーを作る書店まであった「嫌韓本」みたいなものは、この視点で見るとどうなのか。あるいは、性質は異なりますが、ベストセラーを出した著者が似たような内容の本を幾つも出すような例も気になります。公にする意味は何なのだろう、と。

もちろん、いろいろな判断があり得ます。そういう本にも意義があるかもしれません。ひとつの正解はないのですが、英治出版ではまずパブリックにする意味を自分たちなりに考えるようにしています。「パブリックにする仕事」である出版は、そうした価値判断が鍵になる仕事だということです。


2.行動を促す仕事

もうひとつクイズです。これは何でしょうか。

Disputatio pro declaratione virtutis indulgentiarum, 95 theses./ public domain

世界史の教科書などで見たことがある人もいるかもしれません。これはマルティン・ルターが当時の教会を批判して書いた「95か条の論題」です。当時の新しい技術だった活版印刷によって印刷され、ドイツ中に広まって宗教改革の契機になったとされています。これを読んで改革に立ち上がった熱い人たちがたくさんいたのでしょう。出版物が、社会を変える上で大きな役割を果たしたんですね。

いちいち歴史を持ちだして話さなくてもいいのですが、要するに、出版は、人の行動を促し、時には世の中を大きく動かしていくパワーを秘めていると言っていいと思います。

ごく近年の例では、アラブの春や「ウォール街占拠」の運動に際して、非暴力的な運動のノウハウをまとめた政治学者ジーン・シャープの著書『独裁体制から民主主義へ』(筑摩書房)が手引書として活用されたと言われています。ぐっと身近な、個人レベルの話でも、たとえばブルース・チャトウィンの『ソングライン』を読んで旅に出たくなったとか、本によって行動を促されることは多々ありますよね。

だから、出版とは「行動を促す仕事」。これが英治出版が考える出版の2つめのポイントです。

だとすると、出版社としては、どんな行動を促したいのか、を考えなければいけないと思います。これについて私たちは、ポジティブな変化につながる行動、よりよい未来をつくろうとする行動、を促したいと考えています。英治出版が掲げる「Publishing for Change」というフレーズもそういう思いを表しています。


3.応援する仕事

先ほどの「促す」という言葉をちょっと言い換えて、「応援する」と捉えることもできると思います。よりよい未来につながる行動を応援する。

英治出版ではこの「応援する」というのをとても大事にしていて、社内のいろんな場面で使われがちな言葉でもあります。出版は「応援する仕事」。これが3つめのポイントです。

では、誰の何を応援するのか。

英治出版でよく言われるのは「著者を応援する」という言葉です。もちろん「読者を応援する」のもいいですし、本を通して読者を応援しているとも言えるのですが。まず目の前の著者を応援する、ということを大切にしたいと考えています。

出版社なので私たちもしばしば「本を出したい」というご相談を受けます。が、お話を聞いていると多くの場合、本を出すことはゴールではないんですね。本を出してどういう変化を起こしたいのか、本を出すことでどうなりたいのか。何を望むのか。つまり、出版の先の目的や夢をお持ちの方がほとんどです。

だから英治出版では、本を出すことの先にある著者の目的や夢を意識して、その実現を応援するために本を作る、という捉え方をしています。

「編集者」というと、世の中の動きに敏感で、「今このテーマで本を作ったら売れそう」「この著者に書いてもらうと良い本ができそう」などと考えて企画を立てる、というイメージを持つ人も多いようです。私は他の出版社で働いたことがないので知りませんが、実際そうやって企画を立てる編集者が多いのかもしれないし、それで結果を出している人はすごいなと思います。

ですが、英治出版ではそういう仕事の仕方はしていません。応援したい人、応援したい夢を探す。探すというより、出会う、かもしれません。リサーチして探し当てるというより、出会った夢に共感し、応援する。それが企画の出発点にあります。


4.つながりを生む仕事

これは英治出版でよく開催しているアクティブ・ブック・ダイアローグ(ABD)というイベントの様子です。

ABDとは、一冊の本をみんなで手分けして読み、シェアして、対話する読書会のことで、これがとても楽しいんです。英治出版では数年前からこのABDに夢中になっていまして、今はオンライン中心ですが、よく開催しています。アクティブ・ブック・ダイアローグ協会の講座を受けて認定ファシリテーターになっているメンバーが社内に何人もいます。

ABDに熱心な理由の一つは、「同じ本を読む」ことで人はつながることができる、と気づいたからです。心地よいつながりや効果的なつながりが育まれやすいと思うんです。

これは数年前に気づいたことですが、出版記念のイベントなどで、最初にアイスブレイクとして「隣の人と3分間話してください」などと促すと、初対面の人たちばかりの場でも、ほぼ必ず、すぐに話が弾むんです。不思議なくらいいつもそうです。同じ本を読んだ人、同じ本に関心のある人同士、という安心感がそうさせているのだろうと思います。

ABDでも、単純に本の内容を理解できるという価値だけでなく、参加者同士の会話が楽しいという価値を感じる人が多いようです。ABDに限らず他のかたちの読書会にも、そういう面があるのではないかと思います。

出版業界の毎年恒例のニュースに、村上春樹さんがノーベル文学賞を受賞しなかった、というものがあるのですが(いつか受賞したニュースになってほしい)、コロナの前は、文学賞の発表の際、ファンが集まって中継を見守るイベントが開かれていました。「今年こそは」と盛り上がるのも、「今年もだめだったかー」と慰め合うのも、楽しいんでしょうね。

本はつながりを生むことができるし、人は人とつながれる場やきっかけを求めているのだと思います。だから、出版は「つながりを生む仕事」。これが4つめのポイントです。

「つながり」に関して、英治出版で昔からしばしば語られてきたのが「6 degree(シックス・ディグリー)」の話です。知人の知人、その知人の知人、というふうに人のつながりをたどっていくと、6人目までで世界中の人がつながるという、本当かどうか知りませんが、そんな話です。

Six degrees of separation: Artistic visualization. / Laurens van Lieshout
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Six_degrees_of_separation.png

この網の目のようなつながり(関係性)を意識してみると、「つながりを生む仕事」の意味もさらに広がるのではないでしょうか。読書会で人が出会って共感し合う、そのワン・ディグリーのつながりから、ツー、スリー、と広がっていけたら。小さなことから大きな変化が生まれるかもしれません。

一冊の本でも、小さな会社でも、ごく普通の個人でも、世の中の大きな変化の起点になれるかもしれない。そんな可能性があるように思います。「つながりを生む仕事」はその可能性を生んでいける仕事とも言えます。

なお、この話には大事な点が二つあると思います。一つは、まずワン・ディグリーのつながりがないと何も始まらないこと。目の前の一人とのつながりが大切、それは意外に大きな可能性を秘めているかもしれない、ということです。

もう一つは、6人目までつながるのには、たぶんそれなりの時間がかかることです。情報は瞬時に世界中に広がり得ますが、人と人のつながりは、情報と同じスピードでは広がらないし、場合によっては何年もかけて広がることもある。「つながりを生む仕事」をする側としても、長い目で見ていく必要があるのだと思います。これが5つめのポイントの話につながります。


5.時間を超えられる仕事

いま日本で1年間に発行される新刊書籍の数は7万を超えています(2019年は71,903点。「出版指標年報」より)。単純計算でも毎日200タイトルぐらいの新刊が出ていることになります。よく売れる本は一握りで、あっという間に店頭から消え、絶版になる本も多いのが実状です。

一方で、何十年にもわたって売れ続けている、読まれ続けているロングセラーもあります。絵本の『ぐりとぐら』(福音館書店)は初版が1967年。たぶん200刷ぐらいになっていると思います。あっという間に消えていくものが多いという実状はあるものの、書籍は本来、それだけ長く続いていく可能性も持っているメディアです。出版は「時間を超えられる仕事」だと言えます。

英治出版は創業以来、「絶版にしない」ことを方針として掲げています。ごくわずかな例外(著作権者の事情により出版契約の更新ができなくなった場合など)を除いて、あまり売れなくなった本も絶版にせずに売り続けています。これは「時間を超えられる仕事」という本質を大事にしたいと思うからです。

利益にならないのではと思われそうですが、長い時間をかけて採算がとれる本もありますし、ロングセラーにすることを目指して取り組むことで、結果的にはむしろ利益率を高めることになっています。長く売れるコンテンツがあることは経営の安定にもつながります。

自社の書籍で最も販売部数が多いのが『イシューからはじめよ』(安宅和人著)という本ですが、これは2010年に発行したものです。10年売れ続けて、2020年にAmazonのビジネス書ランキング上位に再度現れたりもしました。他にも英治出版にはロングセラーがたくさんあります。

このことは、長く売れるような本を作ろう、という意識にもつながっていると思います。出版企画の可否を決める会議では、すぐに古くなってしまいそうな内容だから出版しにくいね、という話をすることが時々あります。

長く残るという前提は、良いものを作ろう、という意識にもつながります。情報が氾濫する時代に、長く読まれ続けるコンテンツを作ることは、仕事のやりがいにもつながると思います。


6.みんなのものにする、ということ

英治出版で出版という仕事をどのように捉えているか、5つのポイントを挙げてお話ししてきました。

1.パブリックにする仕事

2.行動を促す仕事

3.応援する仕事

4.つながりを生む仕事

5.時間を超えられる仕事

人によっては当たり前と思われたり、出版に限らず他の仕事でも言えるぞと思われたりする点もあったかもしれませんが、ともかく私たちとしては、こんなことを意識しながら出版という仕事をしています。

そして近年、Webメディア「英治出版オンライン」を始めたり、会員制のシェアスペース「EIJI PRESS Base」を作ったり、チーム進化支援ツール「Team Journey Supporter」を共同開発するなど、英治出版の活動は出版以外の領域にも広がりつつあります。

そんな広がりを包括するコンセプトとして、これまで掲げてきた「Publishing for Change」の意味合いも少し進化させました。私たちのやっていきたいPublishingとは「パブリックにすること」、もう少し実感のある言葉で言えば「みんなのものにすること」なのだと気づいたんです。

夢やアイデアや思いを「みんなのもの」にすることで、よりよい未来につながる変化を後押しする。

これが英治出版の掲げる「Publishing for Change」の意味です。上記の5つのポイントも含んでいるとお考えください。英治出版の仕事は、みんなのものにする仕事。

こういう意識で、こういう仕事を、一緒にしていける仲間に出会えたらと思います。

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