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ニューウェーブ温泉概論 feat.『QUICK JAPAN vol.136』

この記事は、『QUICK JAPAN vol.136』のコラム「on the spot」に寄稿させていただいた書き下ろしのエッセイです。2月の湯河原、5月の層雲峡と温泉旅館を手がけるようになった今、「温泉」の新しいあり方についての思いを書かせていただきました。


「チルな時間は、アガった後にしか訪れない」と誰かが私に言った。朝方のクラブ、放課後の教室、プールサイド。チルな時間とは高揚感とくつろぎの共存する状態であるとしたら、それは非日常と日常の境目とも言えるだろう。そういう意味では、温泉は「チル」な空間だと私は常々思っている。

「温泉」という単語にことごとく「癒し」という枕詞が係ってくることが嫌で嫌でたまらなかった。HPの回復方法なんて人それぞれで、「癒し」観が多様化しているこの現代で、日本の温泉シーンは未だに「和風建築に懐石料理」といった様式美にのっとった横並びのサービスが展開されている。もちろん、日本で育まれた独自の旅館文化やホスピタリティ精神は、非常に洗練され価値のあるものであるが、それが「伝統」の名の下で温泉体験の多様化を阻む存在になってしまってはならない。

かつて、とある有名温泉旅館の女将と話す機会に恵まれたことがある。「女将は、家娘や嫁入りで仕方なく旅館を継いでいることが多いから、自己犠牲の気持ちが強いんよ。」とぽろりとこぼしていた。温泉事業のほとんどが家業として受け継がれているものという事実は、業界全体のイノベーションを阻む大きなボトルネックとなってしまっている。



温泉カルチャーとよく似た文化として、北欧のサウナカルチャーが挙げられる。伝統的には、男女に分かれて裸で楽しまれていたと言われているが、現在のフィンランドでは、バー、サウナ、海が一つの動線となっており、水着姿でEDMのかかるバーでお酒を楽しんでから、男女混合のサウナで汗をかき、冷たい海に飛び込む。サウナは温浴施設の域を越え、コミュニティの起点として、男女の出会いの場や、ビジネスミーティングの場となっているという。

温泉シーンには、よく考えれば固定概念に過ぎないと思われる慣習が多く残っている。男女別浴であること。裸で入ること。刺青NGなこと。飲酒が禁止されていること。音楽がかかっていないこと。もちろんそれぞれに由来があり、その正当性や伝統としてのあり方も理解できるが、それ以上に、時代のニーズに即した形に温泉の役割を変えていくことも不可欠である。LGBTのための赤でも青でもないパープルな温泉や、納期に追われる現代人が集中してタスク消化するための温泉宿泊プラン、ナイトプールのように照明と音楽で空間演出された露天風呂・・・。

横並びのサービスやコンセプトに安寧するのではなく、ユーザーのインサイトを読み解き、アイディアひとつで温泉の形はいくらでも変えていくことができる。



日本の行く末を考えた時、将来国際的に勝負できるリソースは水と温泉しかない、と思っている。かつて裸で共同浴場に入ることに抵抗のあったアジア各国にも今や温泉は受け入れられて、毎年大勢の観光客が温泉を求めて訪日している。しかし、その受け皿の多くがビジネスホテルの最上階の大浴場であるという現状はただただヤバいとしか言いようがない。

後継者不足で廃業が相次ぐ温泉シーンではあるが、温泉自体は日本の若い人々の生活にも根差しており、海外にも広く受け入れられている。これらの拡大しつつあるマーケットを抱えながら、時代のニーズの即した役割の変化を遂げながら多様化し、世界的に価値あるものへと昇華しなければならない。

温泉シーンにニューウェーブを生み出すのは、私たち自身だ。


こちらのエッセイは2/24発売『QUICK JAPAN vol.136』にてお読みいただけます。もう書店に並んでいるかと思いますので、見かけましたらぜひお手にとってみてください。千鳥さん表紙が目印です!
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