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【代表インタビュー】印刷業界に、深層学習で変革を起こす ―― まじめにコツコツ、タクトピクセルの戦い方

タクトピクセルを創業して2年目を迎えた代表取締役 CEO/CTOの玉城 。印刷産業向け・ソフトウェア技術にこだわってビジネスを展開してきました。これまでの経歴や創業時のストーリーについてインタビューしました。

バイオリンを習い、電子工作にはまる

小学生のころ、僕のお小遣いは月500円でした。弟がお小遣いで買ったお菓子を美味しそうに食べているのを横目に、僕はコツコツ貯金をしていました。欲しかったのは電子部品。

お金が溜まると、車で1時間半ほどかけて、電子部品を扱う大型専門店「沖縄電子」に連れて行ってもらいました。コンデンサ、トランジスタ、LED……近所では手に入らないような様々な電子部品がずらりと並んでいて、大人の世界に触れたようでドキドキしました。

貯金して、電子部品を買う。また貯金して、電子部品を買う。あまりにも僕が電子部品しか買わないのを見て、「部品に使うならいいよ」と両親がこっそりとお小遣いの金額を上げてくれたのを今でも覚えています。

1988年、沖縄県の北部で生まれました。県庁所在地である那覇市から、車で2時間ほど。海に囲まれた街で、1月には濃いピンク色の桜が咲き、「日本一早いさくらまつり」が行われます。

両親は公立の小中学校で、音楽の先生をしていました。我が家の教育方針は「一芸を身につける」というもの。姉はピアノ、弟はピアノとトランペット、僕も幼いころからバイオリンを習っていました。平日は毎日、母とレッスン。休日もバイオリン教室に通い、オーケストラにも参加する。音楽漬けの日々をすごしました。

そんな環境でしたが、僕がハマったのは電子工作。はんだ付けがすごく好きで、小学3年生の時にはラジオを自作しました。両親もそういう僕の個性をわかってくれたようで、小学校5年生には、発売したばかりのWindows 95を買ってもらいました。

その時、Visual C++も買ってもらい、プログラミングにはじめて挑戦します。しかし、あまりの難しさに挫折。当時話題になっていたActive Basicにも挑戦しますが、これも難しくて挫折。思えば、僕とプログラミングの出会いは、挫折から始まったのかもしれません。

地元の公立高校を卒業して、横浜の大学に進学。化学を専攻します。同時にWebシステムの開発企業でアルバイトを始め、プログラミングに再挑戦しました。大学の研究室では素材研究が専門で、そこでもシミュレーションのためにコンピューターを常に扱い、簡単なツールを開発したり、演算のクラスターマシンを組んだりしていましたね。

大学院ではコンピューター化学を専攻します。タンパク質や糖鎖の構造解析をテーマに米国留学も経験しました。

徐々に認めてもらえるように

化学も好きでしたが、僕はどんどんプログラミングに魅せられていくようになりました。修士を卒業し、プログラマーとして就職します。新卒で入社した企業の業務内容は魅力的で、手ごたえのある仕事ばかり。プログラマーとしての楽しさを実感していました。しかし年功序列の給与体系だったので、成果を上げても評価になかなか繋がらなかった。当時、結婚をしたいと考えていたこともあり、転職活動をしていました。

そんな中、大学時代の音楽仲間から、ナビタスビジョン株式会社を紹介され、転職することになりました。バイオリンでできた縁に助けられたのです。思わぬところで「芸は身を助く」というのを実感しました。

ナビタスビジョンは、印刷業界で利用する画像検査ソフトウエアと周辺技術の研究開発をする会社です。僕はソフトウェアの開発者として、まずはサポート業務からはじめることになります。

毎日、作業着を着て、印刷工場へ向かいます。インクのにおいがして、輪転機が大きな音で回り続けている。お客様の要望を現場で聞き、持ち込んだパソコンを開き、その場で作業をします。作業が終わらなければ、何日も通います。

僕が少し童顔なこともあって、

「こんな若手で大丈夫?」

と取引先にチクリと言われてしまうこともありました。「すみません」と謝ることしかできなかったのですが、何度も何度も通って、誘われたらなるべく飲みに行くようにして、徐々に認めてもらえるようになったと思っています。

次にソフトウェアの開発に取り組みました。出来た成果物を自分で営業して売り、サポートまでする日々。小さな会社だったので、本当に様々な経験ができました。

印刷業界には大きな可能性がある

実際、印刷工場に何度も足を運ぶ中で、わかってきたことがたくさんあります。

1.斜陽産業ではない

入社当時に持っていた「斜陽産業」のイメージががらりと変わりました。印刷産業は、単に紙に印刷するだけに留まりません。特色印刷や箔押し・エンボス加工などのユニークな加飾技術も発展してきており、付加価値の高い商品が生まれていく可能性があります。さらに、個人のコンテンツ制作の需要も高まっています。

2.お客さんごとにカスタマイズする業界

現場に通っていて気付いたのは、担当者に依存している形態であることです。僕は当初、ソフトウェアの改善点を探して、アップデートするのが自分の仕事だと思っていました。しかし現場では、自社用にカスタマイズして、独自のシステムをつくって欲しいという需要が多かったのです。

確かに便利かもしれませんが、デメリットもあります。担当者にしか修正できないシステムになってしまいますし、ソフトウェアが新しいバージョンにアップデートしても、それぞれの会社が持っているソフトには反映されません。

3.IT技術参入の余地がまだまだある

IT技術で良くなる余地のある業界だと気がつきました。例えば、僕が取り扱っていた、印刷の品質を保証するために利用する「画像検査装置」で考えてみましょう。

印刷物は、まったく同じ製品ができるわけではありません。その日の湿度や温度によって微量に伸び縮みや位置ずれが起きます。ですから検査には「あいまいさ」が必要なのですが、機械で画像検査をしようとすると、通常業務では不必要な検出である「過検知」が起こってしまう。ここに技術上の課題がありました。

実際に、印刷工場ではいまだに人間の目視での画像検査が行われています。後述しますが、最新のIT技術で改善することができます。

そして「タクトピクセル」起業へ

「よし、起業しよう」

ある朝起きたときに、腹は決まっていました。

2017年の6月ごろ、第一子が誕生し、僕は産休をもらって、在宅で仕事をしていました。起業を決めたその日に、妻に相談。一週間の家族会議を重ね、快諾してもらいます。大きな反対はしなかった妻でしたが、しっかり者の彼女が洗い物中に不注意でお皿を割ったのを見て、不安にさせてしまったかもしれないと思いました。

ちょうど、手がけていた製品が軌道に乗り、だんだんと売れ始めていた時期でした。以前から興味本位で深層学習技術を勉強していたのですが、すぐに印刷業界においても役立つ技術であることを確信しました。

特に画像検査装置の課題である「過検知」に対して、「あいまいさ」に対応できる深層学習技術を生かせるのではないか。深層学習技術が盛り上がる中、印刷業界に導入するなら今がベストなタイミングではないかと決断しました。

会社には、本気でやりたいことを正直に伝えました。話し合いの中で、ナビタスビジョンのグループ会社として起業することになります。(注:現在はグループ会社を離れて独立しました。)

AI × 印刷産業を切り開く

2018年1月、まずは新横浜に一人部屋のレンタルオフィスを借りるところから、始めました。一人で勉強をし、プログラム開発をし、営業をし、顧客インタビューを行う日々。現場に足を運んでお客様と話をしていくと、自分でも開発に携わっていた画像検査装置の課題に気づき、より高度な認識を取り入れることで印刷製造業務が改善できる可能性に気づきました。

2018年9月、印刷工場のための画像認識クラウドプラットフォーム「POODL 」(プードル)をリリースしました。

深層学習技術を導入することで、今まで手作業で行っていた画像の分類作業を学習し、良品/不良品を自動的に判別することができます。「あいまい」な検知が可能になったのです。オンプレミス版だけではなく、クラウド版も作成し、安価かつ素早いメンテナンスが可能になりました。

2018年の年末には、顧客を獲得し、人員も増え、2019年の3月には今のオフィスがある桜木町に引っ越しました。現在、デザインデータのバージョン管理ツール「proofrog」 (プルーフロッグ)を開発中です。穏やかな人が多くて、雰囲気は和気あいあいとしています。事業が軌道に乗り始めたところなので、常に多方面で人材を募集中です。

こだわっているのは、ソフトウェア企業であることです。OSS(オープンソースソフトウェア)の恩恵を受けているため、可能な範囲で開発した成果物もオープンにしつつ、成長し続けられるような組織にしていきたいと考えています。

僕はひとつのことに専念したいタイプなのですが、得意なのはマルチにいろんなことをソツなくこなすことなんだと気がついてきました。やりたいことをやるよりも、自分が得意なことをやる。今の僕の目標は、それぞれの社員が集中して、得意なことを生かせるような組織をつくることです。

我々の会社は、天才的で超人的な技術者ひとりに頼るスタイルでもないですし、世界最先端のことをやっているわけでもない。世界最先端じゃなくても、実際に使うツールとして優れているものをつくりたい。

全然“キラキラ”していないかもしれません。でも平凡な会社でいいから、まじめにコツコツやっていきたい。それぞれが得意なことを組み合わせて、チームとしていいものをつくっていきたい。

そういう戦い方で、印刷という伝統的な業界であっても、我々のようなITスタートアップがきちんと成長できることを示したいですね。

編集後記

タクトピクセル、オフィスの会議室でインタビューを行いました。机の上には無糖の炭酸飲料が置いてあり、「炭酸しかなくてすみません」と恐縮されていました。タクトピクセルは炭酸飲料が好きな人が集まっているのかもしれません。

玉城社長の印象は「穏やか」「誠実」というもので、お話を聞いてみても、自分を大きく見せようとするところが全くない人だと感じました。お小遣いの500円をコツコツ貯金したように、着々と勉強を重ね、技術を身に着けてきたのではないかと。そして、起業した際のお話を聞いてきたときに、「僕は突破力があるんです」と言い切っていたのも印象的でした。誠実さとタフさが同居した人なのだと思います。

ちなみに、職場環境向上のため、玉城社長の趣味であるクラッシックのCDを流していたようですが、社員から不評ですぐにやめてしまったとのことです。

(聞き手・構成/山本ぽてと)

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