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批判されてもいい。音楽が伝えるのは揺るぎない自信と突き抜ける姿勢だ

アーティストのレコーディングに参加するスタジオミュージシャンとして活躍していた、こっしーこと越湖亮太(こしこ りょうた)(サイカ開発本部 Senior Engineering Manager)が、音楽にゆかりのあるサイカメンバーを招き、テーマを決めて対談する連載。

第2回となる今回は、海外のロック、ジャズ、テクノ、メタルから日本のクラブミュージック、歌謡曲まで幅広い音楽知識を持つ、サイカ開発本部アーキテクト・松嶋慎太郎(まつしま しんたろう)を迎え、音楽は伝達手段になるのか。音楽を使って理解し合うことができるのか。「コミュニケーション手段としての音楽」について語らいます。

今回のお客様 サイカ開発本部 Staff Engineer 松嶋 慎太郎(写真左)

高校時代、Primal Scream(プライマル・スクリーム)やBlur(ブラー)など海外のオルタナティブ・ロックを聴きその音楽性に魅了される。それを機に、アシッドジャズ、テクノ、前衛音楽、クラブミュージックと幅広い音楽に親しんできた。趣味が高じてスマートフォン向けの作曲アプリを開発。現在はサイカ開発本部のスタッフエンジニアとして、プロダクトのリアーキテクチャや数理部分に携わる。最初に触った楽器はバイオリン。

サイカ開発本部 Senior Engineering Manager 越湖 亮太(写真右)

北海道出身。幼少期から叔父の弾くギターに影響を受ける。中学1年生の時、叔父のギターを譲り受けたのをきっかけに本格的にギターを始める。高校卒業後は都内の音楽専門学校に進学し、在学中よりスタジオミュージシャンとして活動を開始。7年間の音楽活動を経てエンジニアに転身。現在は、サイカ開発本部のシニアエンジニアリングマネージャーをつとめる。最初に弾いたギターはムスタング。

音楽は伝達手段になるか?

こっしー:僕は2020年3月に入社したのですが、入社後すぐに、松嶋さんが作った「CATCHPHRASE AND VALUES」という資料を見せてもらいました。開発チームで大事にしたい9つの価値観を音楽の曲名や歌詞・レコードジャケットで表現したもので、とても印象に残っています。

▲開発本部が大事にする価値観を音楽で表現した

松嶋:開発チームの目指す方向性を示すため、2019年に作成しました。当時はメンバー全員が外国籍だったこともあり、「パイオニア」「インパクト」のようなキーワードと日本語の短いディスクリプションだけでは、ニュアンスまでうまく伝えられなかったんです。

こっしー:そこで、音楽の曲名や歌詞を使うことにしたんですね。

松嶋:はい。英語を使ったもので、文章として見たときにメッセージ性があるもの……そこで思い浮かんだのが音楽でした。

ビルボードチャートを1950年代から洗ってイメージに近い曲のタイトルを探そうとしましたが、ラブソングが多いんですよ。一方、自分がよく聞く電子音楽やクラシックだと曲名が記号や番号だったりで使えず、追い込まれました。喫茶店で自分の音楽遍歴を思い出しながらなんとか絞り出したのが Values に使っているものです。

こっしー:僕が特に好きなのは、「インパクト」を表現するJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン)の『Giant Steps』と、「パイオニア」を表現するThe Doorsの『Break On Through(To the Other Side)』。

コルトレーンは、他と同じことは絶対にやらないスタンスで、ジャズの可能性をとことん突き詰めていた人物です。限界に挑戦していくんだ、というメッセージが瞬時に理解できました。

The Doorsの「To the Other Side」は「別次元へ突き抜けろ」というメッセージだと解釈しています。新しい技術を取り入れプロダクトの可能性を別次元まで広げていくイメージが、印象的に伝わってきました。

松嶋:全部で9個あるValuesのうち、最後の「遊び心」はとりわけ気に入っています。硬質な印象の言葉が並ぶ中、最後に「遊び心」が入ることで「全部楽しんでやっていきましょう」とまとめられたのは良かったです。

こっしー:そうなると音楽は伝達手段になると言えるでしょうか。

松嶋:言葉で説明できないニュアンスの部分を補う機能はあると思います。たとえば「パイオニア」という言葉だけだと優等生な印象を受けるかもしれません。でも私が思うのは、少し前に出るパイオニアではなく、突き抜けて突き破るくらいのパイオニア。そのニュアンスをThe Doorsの曲を聴けば感じられると思うんです。そこが音楽のすごいところだと思っています。

こっしー:伝えるという目的は達成できましたか?

松嶋:その点では課題が残りました。楽曲とその背景を知っているこっしーさんには伝わるけれど、ほかのメンバーにはなかなか伝わりません。「K-POPないの? アニソンは?」と言われてしまう(笑)

こっしー:それも含めて考えると、音楽は伝達手段として成立するんでしょうか?

松嶋:楽曲や背景を知らないと伝わらないのでハイコンテクストですよね。広く伝えたり、具体で伝えたい時には向かないかもしれません。ただ、ピンポイントで「このイメージをあなたに伝えたい」時には有効だと思います。

こっしー:理想の空気感を作る手段としても使うことができるかもしれませんね。

いま開発チームでは、音楽を流しながらカジュアル面談をしています。言葉で「カジュアルな場です」と伝えるだけでは足りないので、音楽を流すことで「本当にカジュアルな場なんだ」と感じていただけるようにしているんです。

音楽は共通言語になるか?

こっしー:よく「音楽は世界の共通言語」と言われますが、その点はどう考えますか?

松嶋:音楽は文化の中にあるので、その時代・その土地のコンテクストが関係してくるはずです。「メジャーコードは明るい」も、文化や育った環境が違えば捉え方が変わるかもしれません。コードを外れていたらカオスな印象しか受けないかといったらそんなことはないし、悲しい曲でも演奏によっては楽しくなります。

そこに歌詞やストーリーを加えるとイメージの補正も効きます。ラブソングや教会音楽はわかりやすいですね。

だからといって音を説明的にすればいいわけでもないと思っています。個人的には音楽に具体性を持たせるのがあまり好きではありません。私は、人が感動して涙を流すには、ただ1音あればいいと思っています。抽象的な表現だからこそ味わえるものがあって、それに惹かれる人がいるんですよね。音楽は古代ギリシャ時代からありますが、抽象的であるがゆえに崇高なものだったと思うんです。

こっしー:僕も、歌はほしいけれど歌詞の内容は知りたくないと思う時があります。音に乗っている感情だけを聴きたいのに、歌詞が入ることで歌詞のイメージが先行してしまう。だから、フランス語など自分が翻訳できない楽曲を聴いた時にメロディーや感情がストレートに伝わってきて、いい音楽だなって感じることもあります。

松嶋:音楽は共通言語だけれどもコンテクストに依存している。そして、言葉では介入できない部分を残している。これが音楽の仕組み化されていない素晴らしいところかもしれませんね。

音楽は目標になるか?

こっしー:松嶋さんが尊敬するミュージシャンや影響を受けた音楽はありますか?

松嶋:私は高校時代にプライマル・スクリームを聴いて音楽にハマり、ジャミロクワイ、UFO、MONDO GROSSO(モンド・グロッソ)と聴いていったのですが、UFOやMONDO GROSSOは雑誌やイベントに積極的に出て自分たちの意見を発信していました。音楽だけでなく、態度やファッションまですべてがかっこよかったんです。

人々にとって人生のヒーローは、著名なビジネスマンだったりスポーツ選手だったりすると思いますが、私にとってのヒーローは、マイルス・デイヴィスやエイフェックス・ツインなどのミュージシャンです。彼らの仕事ぶりにはインスパイアされますね。「そんなことをやってしまうのか! 自分も頑張ろう!」というモチベーションの源泉です。こっしーさんはどうですか?

こっしー:僕にとってのヒーローもいっぱいいます。生き様や立ち居振る舞いでいうと、フランク・ザッパですね。権力とカウンターカルチャーの両方を風刺する皮肉屋だけれど、音楽への取り組み方はすごく真摯で、人の声や会話を譜面に起こす挑戦をしてみたり、音楽でどこまで表現できるかを常に追求しているんです。

松嶋:楽しいですね。最高です。

こっしー:中学生の頃、そういった革新的な挑戦にとても感銘を受けました。フランク・ザッパは「自分自身の内に社会の変化を起こす力を持っているがその力を使ったことのない人達──そういう人のために私は演奏したいのだ」と言っています。自身を馬鹿にしている人たちに対しての皮肉かもしれませんが、僕は自分を奮い立たせる言葉として受け取りました。

夢中になったら周りのことを考えずにどんどん突き詰める人が好きなんです。周りの批判や見え方は気にせず、「この後どうなるか、俺が一番最初に知りたい!」と衝動のまま突っ走る人、子供みたいな好奇心を持って走り続けている人をすごく尊敬しているし、そういう人を見て「こういうふうにやればいいのか!」とテンションが上がります。

開発チームでいうと、ありきたりな開発手法を続けている集団ではありたくないと思っているんですよね。先進的な開発手法を生み出している組織でありたい。褒められるようなやり方じゃなかったとしても、常に先進的でありたいですね。

松嶋:五線譜、音色、楽器、MIDIデータなどの膨大な組み合わせを、それこそAIのように全通り試し、その中からナンバーワンを選び取るのが音楽だと思っています。でも膨大な選択肢の中から「これかこれ。もしくはこれ」と保険をかけておくのは良くないと思うんです。

馬鹿にされようが批判されようが、自信と責任を持って「俺は絶対にこれだ!」と世の中に出すのが、ミュージシャンの一番かっこよくて尊敬するところです。選択肢が無限にある中で、その選択を聴く人に納得させる音楽が素晴らしい音楽なんだと思います。

こっしー:音楽をやっている人って、言葉を選ばずにいうと超自信家じゃないですか。それが羨ましくもあり、無謀とも思う。どちらにも捉えられるけれど、どちらを経由しても最終的にやっぱりすごいんですよ。最初から最後まで自分の選択に責任を持ち、揺るぎない自信を持っているのはやっぱりかっこいいですね。

◇編集後記

コミュニケーション手段としての音楽の可能性を考えてきました。音楽は背景を知らないと分かり合えないハイコンテクストな情報伝達手段ですが、ミュージシャンがまとう姿勢は人の心を強く動かし、勇気を与え、モチベーションを高めてくれます。音楽の背景を知り、彼らがもつ熱量をプロダクト開発や事業、生き方に流し込むことが音楽のいちばんよい使い方なのかもしれないと思いました。

【写真・編集=かわばたゆうこ(@xiiiii_zi)】
3歳からクラシックピアノを習い、18歳でジャズピアノに転向。ベースも弾く。好きなアーティストはZAZEN BOYS。

▼第1回対談では、元ミュージシャンの代表平尾が登場しています!

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