人事のプロを目指して、自己の成長ストーリー①「キャリアチェンジのすすめ」

 「人事のプロ」になるとの目標を定めたのは30代前半でしたが、自分なりに考えたその定義は「経営に貢献する人事」でした。とはいえ恥ずかしながら経営とは何かも全く理解できていない頃でしたので、目標に至るには、まずは人事全体そして会社全体を見ることができる、経営者に近しい立ち位置で人事を担うことが大切と考え、これを期に転職を考えるようになります。当時在籍したソニーは人事担当者の数だけでも数百人規模で人事全体や会社全体を見る立場に至るには10年、20年というレンジでさらに時を重ねる必要があったことが一番の要因です。いわゆる年功的な観点で部長職に就くことができるのは早くても40代半ばという時代、しかもそれは採用部長、研修部長、労務部長などの単一機能の責任者、もしくはカンパニーという単一事業を見るカンパニー人事部長の立ち位置でしかなく、ソニーの人事全体を見るためにはさらに時間を要しましたし、加えて当然ながら将来そのような職責を自身が任されるか否かは実力はもとより運も必要と考えたからでした。このような環境にあたっため思案の末、少しでも早く人事のプロに至るためにはソニーという巨大企業の中では難しい、もう少しコンパクトな会社(少なくとも人事部長が一人で人事全ての機能を司る組織体)での経験が早期に必要と考えるに至りました。そのような背景から転職活動開始し、ありがたいことにベネッセコーポレーションとのご縁を頂くことができたのでした。

 ベネッセでは、経営環境的に主力の教育事業が少子高齢化の逆風下にあり、かつ創業50周年の節目を迎えるタイミングで、まさに経営変革の真っ只中でした。実は私はソニーでも創業50周年の節目に在籍することができましたが、50年にかかわらず10年や20年など、節目のタイミングでは会社は変革志向など、ダイナミックな時期になりやすく様々なことが起こるため、キャリア的に濃密な経験ができる可能性は高いと感じます。

 このような背景もあり、私はベネッセに入社してまだ2年という時期になんと人事部長を拝命することができたのでした。ベネッセの人事機能を司る部長は1人のみ、まさにソニーを離れたときの目標でもあった経営に近しい位置で人事全体を見る立場に思いのほか短期間で就任することができたのです。このベネッセでの変革期にマネジメントとして直面できたことが、その後の私のキャリアに大きなプラスをもたらしてくれました。正直、実力でその命を受けたというより、変革期であったからこそ会社としては生え抜きの人ではなくフレッシュアイをもつ外から来た人材を登用しようとの意向が働いたものと思います。とても運が良かったと認識していますし、この経験からその後の転職の1つの視点として、良い会社であるか、報酬、ポジションを考えることは当たり前ですが、それとは別に会社の経営環境、成長ステージを念頭におくことがとても大切と考えるようになりました。

 人事部長就任は40歳ちょうどでしたが、今、思い返してみても様々な経験を重ねることできた(オーナー社長が経営の一線を引く、外部プロ経営者招聘、カンパニー制・執行役員制導入、人事制度改革、ひいては経営トップのスキャンダルによる突然の退任など)と感慨に浸ることが多々あります。社外の人事の方々と交流する機会が多くなったのもこのころで、この時に出会った方々には今でもお付き合い頂いている方が多々いらっしゃいます。

 一方で身の丈に合わない職責を担ったことで、それまでに味わったことのない厳しい経験をすることになりました。変革をドライブする人事の取組みが不十分、期待に至らないと何度も社長や役員から叱責を受けましたし、多くの社員の方々からもクレームが寄せられましたが、立場上、相談できる方も限られてしまい、正直どうしたらよいのかわからない苦しい日々が続きました。(ベネッセ退職時の送別会の席であいさつした際、そのことが走馬灯のように頭をよぎり涙が止まらなかったこと、40超えたいい大人が・・と恥ずかしい思い出でもありますが、それほどまでに自身にとっては追い込まれた日々だったのでしょう)ただ今になってようやく冷静に振り返ることができるようになりましたが、結果的にはこれらの経験はその後の私の40代、50代のキャリア形成に大きく深みや幅をもたらせてくれるものだったのです。お世話になったミスミの経営者 三枝匡氏が語る経営人材育成論の1つに「ブカブカの靴をはかせる」、つまり実力に比しあえて大きな役割を与えると人は育つとの要諦がありますが、まさにその機会を頂けたのだと当時の上長にはとても感謝しています。ブカブカの靴をはかせるとは、会社としては人材に先行投資することであり、個人にとっては(昔風に言えば)出世払いにして頂けたことなのですから・・。

 人事の世界では、永年勤めあげその会社を知り尽くすことで、いわゆる会社のプロとして人事領域でもパフォーマンスを発揮する方が多々いらっしゃり、それはそれでとても素晴らしいことと思いますが、かたや人事の仕事そのものを知り尽くし、いかなる会社環境、成長ステージにおいても最適なソリューションや深い洞察をもたらしめるプロフェッショナルも私は一定割合で必要と考えています。そしてもしその想いを持つ方がいらっしゃれば、私はストレッチの1つの選択肢としてぜひに人事としてのキャリアチェンジをお勧めしたいと思う次第です。その方々のためにも私自身が過去にキャリアチェンジを選択した結果、どのようなことが自らの身に生じることとなったのか、僭越ながら次のパート以降でできるだけリアルに共有させていただきたく思います。(つづく)

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